このエントリは シリーズに 澱んだ紫の空の下で

澱んだ紫の空の下で

第二話:敗北の残香

第二話:敗北の残香

第一話:生き抜くために

第一話:生き抜くために

「イオリが戻って来ない」

珍しくゲヘナ風紀委員長のヒナは焦っていた。

「確かに遅いですね……」

副委員長のアコがヒナの隣で頷く。

「やっぱり私が……」

震える膝に力を込め、立ち上がろうとした――その瞬間。
身体を強張らせたヒナの、下腹部の奥底から、ずるり、と重苦しい異物が下りてくる。
抵抗する間もなく、ぼとんっと重い音を立てて、ヒナの赤く充血した痛々しい幼い秘裂から溢れ出たのは、体内に残されていた塊のような怪物の精液だった。
自分の足元で弾けた白濁色の塊を屈辱と絶望の目で見つめるヒナ。

「ダメです!!委員長は前の戦いで、あんなに……ぐちゃぐちゃにされて……っ!」

強い語気で制止するアコの視線が、ヒナの痛々しく包帯に包まれた身体――止め処なく粘つく精液が垂れる内股へと向かった。
ヒナを守れなかったアコの顔が曇る。

「きっと大丈夫です。イオリの事ですからきっとお腹をすかせて帰ってきますよ」

ヒナを安心させるために笑顔を取り繕う。

「でも、念のため捜索隊くらいは編成しておきま……っ、ぁ……ぎっ!?!?」

アコの下腹部がボコボコと不気味に蠢く。

ぶりゅっ!ぼとんっ!

アコの秘裂から拳よりも大きな野太い蛆虫が産み落とされた。
蛆虫は不気味に蠢きながら、尻の先からびゅくっびゅるっと精液を撒き散らしている。

「っ!!このぉ!!」

内股を怪物の精液でベトベトに汚しながら、アコは狂ったように床の異形を踏みつける。
――ぶちっ、ぐちゃり。
靴底から伝わる、蛆虫が潰れて弾ける悍ましい感触。
緑色の蛆虫の体液と精液が飛び散り、生臭い腐臭が部屋に広がる。

「はぁ……っ、はぁ……!」

踏み潰した際の不気味な弾力が、自分を犯した怪物の肉感を否応なしに思い出させ、アコの全身に猛烈な悍気が走る。

そんな中、先生から連絡が入る。
『ヒナ、ゲヘナのみんなは大丈夫?キヴォトス中が大変なことになってる。ゲヘナに行くのに時間がかかりそうだけど、ヒナがいるから大丈夫だよね?』

大丈夫じゃない、助けて、って言いたかった。
でも、先生を安心させたくて……。
下着すら突き破られた股間から、怪物の精液がどろりと内股を伝い落ちるのを感じながら、ヒナは涙を堪え、震える指先で画面を叩いた。
――『大丈夫、私がみんなを守るから』と短く返信した。

「委員長……」

また一人で背負い込むヒナを助けることが出来ない無力感でアコは言葉を詰まらせた。

「やっぱり私が行かなきゃ……」

震える脚でイオリの捜索に向かおうとしたその時――

――ガシャァン!と、風紀委員会室の扉が無造作に蹴破られる。
硝煙と、そして温泉開発部がよく纏っている「硫黄の匂い」に混じって、聞き覚えのある不敵な高笑いが、満身創痍の二人に突き刺さった。

「はーっはっは!風紀委員長ともあろう者が、随分と無様な姿ではないか!そんな満身創痍の身体で、一体何が出来るというのだね?」

爆煙の向こうから姿を現したのは、温泉開発部部長――鬼怒川カスミだった。
彼女はくんっと鼻を鳴らし、部屋を充満する異様な空気感に少しだけ眉をひそめる。

「……ふん、随分と生臭い匂いがするものだね。まあいい、銀鏡イオリの捜索には私が行こう!」

「はぁ!?あなた何を言って……!」

ゲヘナ随一の問題児集団の長からの提案にアコが気色ばむ。

「なぁに、何もタダというわけではない。キヴォトスが平穏に戻ったらゲヘナ内の好きな場所を掘らせて貰うぞ!」

「委員長だって……あんな、規格外の大きなモノで、奥の奥まで……ぐちゃぐちゃに、裂かれて……っ! 私だって、あんな大きな蛆虫に……犯されて……今も、お腹の中で何かが……っ! あなた如きが、あの化け物どもにどうにか出来るわけないでしょう……っ!!」

アコはそれ以上、言葉を紡げなかった。自らの口から出たあまりに悍ましい告白と、下腹部で蠢く鈍い不快感に、唇を戦慄かせることしかできない。

「……」

アコのあまりに悍ましい告白が、静まり返った部屋に消えていく。
カスミの鼻腔を突くのは、温泉の硫黄を強制的に塗りつぶすほどの、圧倒的な腐臭と生臭さ。そして、二人の衣服の不自然な汚れと、床に広がる緑色の体液。
――カスミの不敵な笑みが一瞬だけ消える。だが、彼女はそれ以上二人の身体に視線を落とすことはなく、ふっといつもの笑みをその口元に戻した。

「守る為に戦う風紀委員長様とヴィランでは戦い方が違うのだよ。それに、あのお嬢ちゃんは知らん仲でもないしな!」

いつもの高笑いをするカスミ。

「本当にイオリを探しに行ってくれるの……?」

「お、おう、行ってやるとも。いつになく殊勝な態度だな、風紀委員長。……ふん、相手が『蟲』だと分かっているなら話は簡単だ。あんな蠢く肉塊ども、対策(ダイナマイト)さえあれば巣ごと一網打尽にしてくれるわ!」

いつもと違う弱々しいヒナに一瞬面食らうカスミ。

​「待ちなさい……! カスミ、あなただけで行かせるわけには……!」

​アコが震える手で愛銃を構えようとするが、胎内を蠢く蛆虫によって下腹部がボコボコと悍ましく波打ち、吐き気に襲われその場に膝を突く。
びゅるり、と下着の隙間からまた不気味な粘液が溢れ、床を汚した。

​「ふん、その身体で付いてきて、私のダイナマイトの爆風に巻き込まれて死にたいのかね? 足手まといはいらんよ。精々そこで、大人しく私を待っているがいい」

​カスミは一度も二人の下半身に視線を落とすことなく、ただ不敵に背中を向ける。
カスミは愛用の銃のグリップをミキミキと鳴るほど握り締めていた。
その去り際、かすかに、だが確実に殺気の籠もった声が漏れた。

​「……ゲヘナを、私の遊び場をあそこまでコケにしてくれたのだ。ただの害虫駆除では済まさんさ」

​ガシャァン、と再び乱暴に扉が閉まり、部屋に充満していた悍ましい腐臭を、カスミの残した硫黄の匂いが一時的に塗りつぶしていた。
──だが、それも一瞬のこと。カスミの纏っていた硫黄の香りは呆気なく霧散し、二人の身体から絶え間なく溢れ出る、ドロドロとした怪物の腐臭と精液の匂いが、再び部屋の空気を澱ませていく。
静まり返った部屋で、ヒナは自分の内股を伝う、終わりのない熱い不快感に耐えながら、ぽつりと呟いた。

​「……お願い、無事でいて、イオリ……」

澱んだ紫の空の下で

第一話:生き抜くために